「アンタのせいよ」
遠慮もなしに言い放つ言葉には、怒りしかない。
「どうしてくれるの?」
そう言われても、瑠駆真には何の術もない。
白眼で見上げられては、視線を落してもなんとなく目が合ってしまう。瑠駆真は、さらに俯いて足元を見つめた。
美鶴の視線が怖いのではない。ただ、返す言葉も向ける表情も、思いつかないのだ。
「もっとも、これがアンタの目的だったのかもしれないんだけどね」
「え?」
思わず聞き返す瑠駆真を、美鶴は嫌味たっぷりの視線で見返した。
「私の成績が落ちて、アンタの取り巻きはえらく嬉しそうだものね」
「僕には関係ないよっ」
「どうだか」
ふんっと鼻で笑われる。
「大方アンタも、私の下がった成績を楽しんでるんじゃない?」
「なにをっ―――」
バカなコトをっ
そう言おうとしたが、あまりの驚きに言葉が出ない。
美鶴の表情が、スッと冷たくなる。
「金持ちなんて、所詮そんなモンよね。アンタだって、私に部屋を貸して自己満足して、私の成績を落としてバカにして、そうやって楽しんでるんでしょう? 上流階級の人間の楽しみといったら、噂話と虚仮落としって相場は決まってるものね」
浴びせられる罵声。辛い過去が、甦る。
「やめろよっ」
声が、掠れる。
そんな冷たい視線で、僕を見ないでくれ。君は、そんな顔をするような子じゃあ、ないはずだ。
あんな下輩なヤツらと君を、重ねたくなんかない。
だが、今の瑠駆真が何を言っても、美鶴には届かない。
入学当時から保ってきた全教科一番の座を、先日の試験で一教科だけ落してしまった。それは英語――――
金本聡がバスケ部に所属し、駅舎で美鶴と二人だけの時間を過ごすようになった時期がある。その時、瑠駆真は美鶴に、英語を教えてくれと頼んだ。
美鶴は嫌がったが、半ば強引に質問をしては、相手をしてもらった。
順位降下はそれが原因というのが、美鶴の言い分だ。
瑠駆真の相手などをしていたから―――
美鶴を快く思わない生徒達は、朝からこぞって彼女をいびりたてた。
明日からは夏休み。今日は終業式だから午前中で終わったが、下校時まで、美鶴の周囲が静まることはなかった。
日ごろから周囲に敵意を持たせるような態度で生活してきた、美鶴にも非がある。常から己の輿望を下げるような言動を繰り返してきた結果だ。
だが本人には、自分が悪いという認識はない。
金持ちはバカで、バカは見下しても良いという理念のモトに生活している彼女にとって、卑下している相手から逆に見下されるのは、この上なく耐えられない屈辱。
「よくも私を、笑い物にしてくれたわねっ!」
瑠駆真が駅舎に顔を見せた途端、机を叩いて歯軋りをする。
「許さないっ!」
瑠駆真には、言い訳も弁明も許されない。
「顔も見たくない」
有無を言わさぬ排除。
「出て行けっ!」
「美鶴っ!!」
「気安く呼ぶなっ!」
頭を大きく振り乱して、床に向かって吐き叫ぶ。
「お前の顔なんか、見たくないっ!」
「美鶴っ!」
「やめておけ」
耳元で囁かれ、瑠駆真は息も止まるほど驚愕する。
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